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遺留分とは?相続トラブルを防ぐための基礎知識と対策

2025.05.26更新

遺言書を作成する時は遺留分と呼ばれる最低限の権利を下回らないようにする必要があります。遺言で不公平な財産の分配が行われた場合には、遺留分侵害額請求と呼ばれる権利が認められます。生前対策では遺留分を侵害しないように注意が求められ、相続トラブルでは「自分の最低限の取り分がいくらなのか」を知らなくてはなりません。それでは、遺留分とはどのようなもので、具体的にはいくらになるのでしょうか。

遺留分とは

遺言が作成されたり、生前贈与がされているときに一定範囲の相続人に対し、最低限の取り分である「遺留分」の保障があります。万一にも遺留分が不足するときは、その足りない分について遺留分侵害額請求権(旧:遺留分減殺請求権)も認められます。相続分を巡るトラブルの解決のため、以下に解説するポイントを基礎知識として押さえておきましょう。

遺言よりも優先される

相続人各人に認められる遺留分は、遺言で侵害することができません。遺留分を侵害する内容の遺言でも有効性に影響はありませんが、不足した遺留分の請求が認められることによって、亡くなった人が想定していた遺産分割は結果として実現しません。具体的には、一定の高額財産を特定の相続人に相続させる旨の遺言や、相続人でない人への高額な贈与が記載された遺言が挙げられます。

間違えやすい遺留分と法定相続分の違い

遺留分と法定相続分はときどき混同されますが、全く違うものです。法定相続分とは、遺産分割にあたっての基準となる割合であり、遺言が存在しない場合に意味を持ちます。
これに対して遺留分は、遺言や生前贈与が存在する時の相続人各人の最低限の取り分です。

遺留分は放棄できる

遺留分は権利者の意思で放棄することができます。遺留分の放棄は、被相続人の生前と死後のどちらでも可能です。生前に放棄する場合は、家庭裁判所の許可が必要となります。一方、死後の放棄は特別な手続きは不要で、侵害した者に対して遺留分を請求しない旨の意思表示をするか、後述する遺留分を請求出来る期間内に遺留分を請求しなければ足ります。いずれにせよ、一旦遺留分を放棄する旨を意思表示をした場合は撤回・取消しが難しくなるため、遺留分の放棄は慎重に行う必要があります。

2019年の法改正による重要な変更点

2019年の民法改正により、遺留分に変更がありました。重要なのは「遺留分減殺請求」から「遺留分侵害額請求」に変更されたことです。これにより、遺留分を侵害された相続人は、財産そのものの取り戻しではなく、金銭での支払いを請求できるようになった点です。この変更で、相続トラブルが起こったときに金銭による早期の紛争解決が期待できるようになりましたが、一方で、遺留分を請求する権利を行使する際に、これが金銭債権における消滅時効(5年)にかかるようになったのは注意したいポイントです。

遺留分が認められる相続人の範囲

遺留分は、相続人の生活を保障するために設けられた制度です。しかし、すべての相続人に遺留分が認められているわけではありません。遺留分が認められる相続人の範囲は法律で明確に定められており、その範囲に含まれる人だけが遺留分の権利を主張することができます。

遺留分が認められる人・認められない人

法律上相続人とされるのは、配偶者を筆頭に、①子・②直系尊属(父母や祖父母のうち最も親等が近い者)・③兄弟姉妹(兄弟姉妹が死亡している時は甥姪)です。これらの法定相続人のうち、遺留分が認められるのは、配偶者・子・直系尊属のみとなります(兄弟姉妹は認められません)

 

とくに、配偶者および子については、その生活を保護する必要が高いと考えられ、遺留分の計算においても優遇されます。その詳細は、遺留分の金額・割合の章で解説します。

代襲相続が起きた場合はどうなる?

代襲相続とは、本来相続人となるべき者が相続開始以前に死亡している場合に、その者の子(被相続人から見て孫)が代わって相続人となることです。代襲相続の発生は、直系卑属の場合は孫・ひ孫……とのように何代でも続きますが、兄弟姉妹の場合は甥や姪などといった一代限りです。

 

代襲相続人は、原則として被代襲者(代襲される人)が持っていた権利を引き継ぎます。つまり、被代襲者に遺留分が認められていた場合、代襲相続人にも遺留分が認められます。ただし、兄弟姉妹の代襲相続人(甥・姪)については、代襲被相続人に遺留分の権利がないことから、必然的に遺留分の引き継ぎもありません。

相続放棄・相続廃除・相続欠格があった場合

相続放棄、相続廃除、相続欠格は、いずれも相続人としての権利を失うことから、遺留分も受け取れません(ただし、廃除・相続欠格がある時に代襲相続人が居れば代襲相続人に遺留分が認められます)。対象者以外の遺留分は、相続人の変更に伴う再計算が必要になります。たとえば、被相続人に配偶者と子2人がいた場合、子1人が相続放棄をすると、残りの配偶者と子1人で遺留分を再計算することになります。

遺留分の金額・割合の考え方

遺留分の金額や遺産全体に占める割合は、まず「遺留分算定の基礎となる財産の範囲」の特定から始まります。特定したあとは、遺留分の権利を有する人全員を合わせた割合にあたる「総体的遺留分」を判断し、続いて各人の「個別的遺留分」を判断することになります。順を追って解説すると、次の通りです。

遺留分算定の基礎となる財産

遺留分算定の基礎となる財産の範囲(=遺留分が侵害されたと主張できる財産の範囲)は、亡くなったときに有していた財産だけではありません。生前贈与についても、下記で説明する範囲で遺留分を計算する際に含めることが可能です。

遺留分算定の基礎となる財産

  • 亡くなった時点で有する財産
  • 相続開始前1年間に行った贈与
  • 相続開始前10年間に行った特別受益にあたる贈与
  • 遺留分が侵害されることを知ってなされた贈与(上記期間内に限られない)

ここで言う特別受益とは、相続人が被相続人から生前に受けた贈与などを指します。これらは遺留分算定の基礎財産に含まれ、特別受益の持戻しの免除(遺産分割のときに遺産から除外する意思を示すこと)の効果は遺留分には及びません。

 

なお、上記の財産の範囲には、完済前の借金なども含まれ、これら相続した債務は遺留分算定の基礎となる財産から控除されます。一方で、葬儀費用に関しては、遺言書による指定・相続人全員の同意などがなければ、控除は行いません。

遺留分の計算方法

算定の基礎となる財産の範囲が分かったときは、相続人の構成に応じ、左記に一定の割合を適用することで遺留分の額が分かります。最初に、遺留分の計算方法を式で示しておくと、次の通りです。

 

遺留分の金額 = 遺留分算定の基礎となる財産 × 総体的遺留分の割合 × 法定相続分

総体的遺留分の計算

算定の基礎となる財産に占める総体的遺留分の割合は、配偶者や子の有無で変化します。保護の必要性が高い場合には2分の1、そうでない場合は3分の1と考え、相続人の構成で示すと次のようになります。

総体的遺留分の割合
  • 配偶者や子が相続人である場合:2分の1
  • 直系尊属のみが相続人である場合:3分の1

個別的遺留分の計算

個別的遺留分は、相対的遺留分に法定相続分を乗じた割合です。同順位の相続人に関しては、個別的遺留分を均等に割って取得します。例を2つ挙げてみましょう。

 

※A = 遺留分算定の基礎となる財産

 

【例1】配偶者と2人の子が相続人である場合

配偶者の個別的遺留分

A × 2分の1(総体的遺留分)× 2分の1(法定相続分)

子の個別的遺留分

A × 2分の1(総体的遺留分)× 2分の1(法定相続分)× 2分の1

【例2】父母が相続人である場合

各相続人の個別的遺留分

A × 3分の1(総体的遺留分)× 2分の1

遺留分割合の計算例と早見表

算定の基礎となる財産に占める各人の遺留分の割合は、相続人の組み合わせにより固定されます。個別的遺留分の計算まで行った結果を、基礎となる財産に対する割合で示すと、下の表の通りとなります。具体的な金額については、自分で計算を行うと不正確になる恐れがあるため、表は目安だと考え、専門家に相談すると良いでしょう。

 

法定相続人の組み合わせ 配偶者 子※ 直系尊属※ 兄弟姉妹
配偶者と子 4分の1 4分の1
配偶者と直系尊属 3分の1 6分の1
配偶者と兄弟姉妹 2分の1 なし
配偶者のみ 2分の1
子のみ 2分の1
直系尊属のみ 3分の1
兄弟姉妹のみ なし

※同順位の相続人が複数いる場合は、表にある割合を頭数で均等に割ります。

遺留分が不足する場合の対応方法

遺言や生前贈与によって遺留分が侵害されていることが判明した場合は、遺留分侵害額請求を行う権利が発生します。生前贈与や高額な相続・遺贈を受けた人に対して、不足した遺留分を金銭で支払うよう求める権利です。その対応にあたっては、以下のようなポイントがあります。

遺留分を請求できる期間

遺留分を請求できる期間は、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知った時から1年間です。この消滅時効のほかに、相続開始の時から10年を経過したときも、遺留分を請求できる権利は消滅するとされます(除斥期間)。したがって、遺留分侵害の可能性を感じた場合は、速やかに行動を起こすことが重要です。

書面で不足分を請求する

遺留分侵害額請求は手始めに書面を送付するのが普通です。遺留分を請求出来る期間内に請求したことを明らかにする為、内容証明郵便、さらに配達証明を使うと良いでしょう。書面に記載すべき内容としては、遺留分侵害の指摘や、請求金額、その算定根拠や、返信すべき期間などがあります。自分で請求するのは難しいと考える場合は、弁護士などの専門家に相談しましょう。

遺産分割調停で協議を続ける

書面や口頭での遺留分請求が不調に終わった場合、次の段階として家庭裁判所で調停を申し立てます。調停では、調停委員が双方の言い分を聞き、成立に向けて仲介・調整を図ってくれます。裁判所が判断を下してくれるわけではありませんが、当事者だけで話し合う場合に比べて、解決がスムーズになるメリットがあります。

遺留分侵害額請求訴訟を提起する

調停で解決できない場合、最終的な手段として遺留分侵害額請求訴訟を提起することになります。申立先は家庭裁判所ではなく、140万円以内であれば簡易裁判所、それ以上になる場合は地方裁判所となります。訴訟で解決を図るときに注意したいのは、遺留分侵害の証拠を用意する必要性や、言い分を法的に説明した書面が必要になったりする点です。こうした対応は、当事者だけだと難しく、弁護士による支援が求められます。

まとめ

遺留分は、遺言よりも優先される「最低限の取り分」であり、配偶者や子・直系尊属について認められています。遺留分が発生するのは一定範囲の生前贈与に及び、不足が発生する場合は「遺留分侵害額請求」が認められます。相続トラブルやその防止にあたっては、各相続人の遺留分を適切に判断し、それぞれ十分な額を受け取れる配慮が求められます。

 

遺言や生前贈与では、資産と家族構成によって適切な遺留分対策が分かれます。相続開始後のトラブルでは、交渉の方法と進め方が大切です。遺産の取り分で問題になったときや、問題に発展しそうなときは、弁護士などの専門家に相談するようにしましょう。

投稿者: 西法律事務所(厚木市)

遺言書が後から出てきたらどうする?遺産分割をやり直す必要性の判断基準

2025.05.26更新

遺産分割を終えた後になって遺言書が見つかるケースは、決してないとは言えません。この場合、何年経とうと遺言書の効果は依然として生じるため、基本的には遺産分割をやり直す必要があります。ここでは、万一のときの具体的な対応方法も含めて、後から出てきた遺言書の取扱いを押さえましょう。

後から出てきた遺言書の法的な扱い

遺言書は亡くなった人の最終的な意思を反映するための書類で、遺言者(=遺言をした人)の死後すぐに効果を持ちます。実際には、遺言書の存在を知らないまま相続手続を進めてしまい、後になって遺言書が発見されるケースもあり得る話です。このような場合の対応方法を知るために、まずは遺言書の扱いについて押さえましょう。

遺言は遺産分割協議より優先される

亡くなった人の財産について取り分を決める方法には、遺言と遺産分割協議の2つの方法があります。これらのうち優先されるのは、遺言の内容です。これは、被相続人の意思を最大限尊重するという法律の基本的な考え方に基づいています。

遺言書の効果に期限はない

有効な遺言書がある場合、その効果に期限はありません。被相続人の死後どれだけ時間が経過しても、遺言書は以前として効果を持ちます。例外として、より新しい日付の有効な遺言書が存在するケースもありますが、このケースでは、新しい方の遺言の効果が遺産分割協議に優先します。

遺産分割のやり直しが必要になるケース

亡くなった人の意思が最優先され、遺言書の効果が期限によって消滅しない以上、相続手続のあとになって遺言書が見つかれば、基本的には遺産分割をやり直す必要があります。とくに注意したいのは、遺言に沿った遺産分割を支持する関係者がいる場合や、相続財産をもらうべき人に変更がある場合です。

一部の相続人が遺言書に沿った分割を主張している

先に行った遺産分割が後で見つかった遺言書より優先されるのは、原則として、相続人全員が「それで問題ない」と判断しているときだけです。遺言の効果が生じている以上、誰かが「遺言書の通り遺産分割を」と望むのであれば、遺産の分配をやり直さなくてはなりません。

遺言執行者が指定されている

遺言執行者とは、遺言の内容を確実に実行するため遺言者もしくは家庭裁判所が指定する人物です。遺言執行者を指定する内容の遺言書が見つかったケースでは、後の対応が遺言執行者に指定されています。行われる判断としては「すでに行われた遺産分割協議を追認する」もしくは「遺言を執行する」のいずれかで、後者の判断になったケースでは、あらためて遺産の分配が実施されます。

相続人以外の第三者への遺贈がある

遺言書で第三者への贈与(遺贈)が指定されている場合、対象の財産は、受遺者(遺贈を受ける人)に移転するはずです。遺贈があるにも関わらず、遺産分割協議で相続人がその財産を取得してしまった場合、法的には問題が生じます。先に示された遺贈は有効なのに、その遺贈の分も相続人が受け取っていることになるからです。このような場合、受遺者の権利を尊重し、遺言の内容に沿った形で財産の再分配を行わなければなりません。

相続人の廃除や認知に関する記述がある

遺言による相続人の廃除(あるいは廃除の取消し)や、子の認知があった場合、相続人の範囲に変更が生じることになります。ある相続人が廃除されれば相続権を失い、逆に認知された人が新たに相続人となるイメージです。このように相続人に変更があった場合、その変更を反映していない状態で行われた遺産分割協議は参加者に過不足があったものとして無効になり、遺産分割をやり直す必要があります。

遺産分割のやり直しをしなくても良いケース

遺言書が後から見つかったからといって、必ずしも遺産分割をやり直す必要があるわけではありません。状況によっては、既に行われた遺産分割を維持することも可能です。具体的には、そもそも遺言書に効力がないケースや、相続人の合意があるケースなどが挙げられます。

遺言書が無効である

遺言書が無効である場合、その内容に基づいて遺産分割をやり直す必要はありません。遺言書の無効事由には主に以下のようなものがあります。先に具体例を挙げておくと、認知症が進行した状態で作成された遺言書や、日付や押印が欠けている自筆証書遺言などが考えられます。

遺言能力の欠如

遺言者が遺言作成時に十分な判断能力を有していなかった場合を指します。

方式違背

法律で定められた方式(自筆証書遺言の場合は全文自筆、日付の記載、押印など)を満たしていない場合を指します。

遺言者の真意に基づかない作成

詐欺や強迫により作成された場合を指します。

 

なお、遺言書の無効を判断するにあたっては、最終的に地方裁判所(または簡易裁判所)で遺言無効確認請求訴訟を提起する必要があります。ここで無効が確定すれば、既に行われた遺産分割協議をそのまま維持することができます。

相続人全員の合意がある

後から遺言書が見つかった場合でも、とくに第三者への遺贈はなく、相続人全員が既に行われた遺産分割協議の結果を維持することに合意していれば、遺産の分配をやり直す必要はありません。遺言の内容に関わらず、その相続人らの合意が優先されます。

 

先に行った遺産分割協議を優先する旨の合意をとる際は、いくつかポイントがあります。まず、すべての相続人が遺言の内容を承知し、それぞれの自由な意思で判断することが重要です。次に、いったん合意しても、後から覆されてトラブルになる可能性は否めません。こうした点を踏まえると、できるだけ合意の内容を書面にしておくと安心です。

遺言の内容が遺産分割協議の結果とほぼ同じ

遺言の内容と遺産分割協議の結果が近い場合は、遺言の存在を知っていれば遺産分割の合意をしなかったであろうと言える場合かどうかが判断基準になります。協議で合意した内容と遺言とのあいだの違いがほとんどない状態なら、上記のように言うことはできず、遺産分割はやり直さなくても良いと考えられます。

 

問題は「ほぼ同じ」という基準は明確ではなく、個別のケースごとに判断する必要がある点です。例えば、財産の分配割合が若干異なる程度であれば「ほぼ同じ」と判断される可能性が高いと言えますが、特定の財産の帰属先が異なるような場合は、より慎重な判断が必要になるでしょう。

遺言書発見後の具体的な対応手順

遺言書が後から発見された場合、適切な手順で対応することが重要です。基本的には、家庭裁判所の検認を経て、相続人全員に遺言の内容を通知する手順となります。何よりも大切なのは、見つかった遺言書を勝手に開封しないことです。順を追って対応方法を確認してみましょう。

家庭裁判所での検認を申し立てる

遺言書が見つかったら、未開封の状態で確保し、速やかに家庭裁判所へ「検認」と呼ばれる手続の申立てをすべきです。(封がされていない遺言書も検認の手続きは必要です)検認とは、相続人の立ち会いのもとで開封を行い、遺言書の存在と内容を明らかにし、遺言書の偽造や変造を防ぐ手続です。公正証書遺言および法務局の保管制度を利用した自筆証書遺言以外は、上記の手続が必要とされます。

遺言書の有効性を確認する

検認を経た遺言書は、形式面と内容が効果を持つものかチェックします。とくに、内容が不明瞭だったり、訂正された痕跡があったり、入院中・療養中に作成されている可能性があったりするものは、慎重に確認する必要があります。判断できないときは、専門家に相談し、内容をチェックしてもらうと良いでしょう。

相続人全員に遺言の内容を知らせる

検認の手続きでは裁判所から各相続人に検認の期日の通知が行きますので、手続きに出席した相続人はその場で遺言書の内容を確認する事ができます。
検認手続きに参加しなかった相続人に対しては、遺言書の写しを送付してあげると良いでしょう。
相続人間の信頼関係を維持するためにも、できるだけ早く行うことが大切です。

遺産分割のやり直しについて話し合う

遺言書の内容に基づいて遺産分割をやり直す必要がある場合は、相続人全員で話し合いを行います。話し合いの進め方としては、以下のポイントに注意しましょう。

  • 中立的な場所で話し合いを行う
  • 各相続人の意見を平等に聞く
  • 感情的にならず、冷静に議論する

合意形成のためには、遺言者の意思を尊重しつつ、各相続人の事情も考慮することが大切です。難しいと感じたときは、弁護士を代理人としたり、アドバイスを得たりすることで、円滑に話し合えるようになります。

遺言書を見つけたときの留意点

遺言書を発見した人は、書面の重要性の高さゆえに、適切に扱う義務を事実上負うことになります。発見したときの状況も、あまりに長い時間が経っていたり、相続放棄した人がいたりするケースでは、個別の判断が求められます。留意点として具体的に説明すると、次の通りです。

遺言書を隠匿するのはNG

後から遺言書が見つかるケースでは、誰にも話さず自分の手元で保管する場合が見られます。結論から言えば、悪気がなくても「隠匿」とみなされるような行為は厳禁です。遺言書の隠匿は相続欠格事由に該当し、相続権を失う可能性があるためです。

 

遺言書は適切に保管し、速やかに開示することが重要です。発見した遺言書は、できるだけ早く他の相続人にも知らせ、家庭裁判所での検認手続きを行うべきです。その上で、万一にも他の相続人から遺言書の隠匿を疑われた場合は、誠実に対応することが大切です。

相続放棄した人がいる場合の対応方法

一部の相続人が相続放棄をした後に遺言書が見つかった場合、その対応は複雑になります。前提として、相続放棄の撤回は原則として認められません。ただし、錯誤による相続放棄の取消しが認められる可能性はありますが、これは個別に家庭裁判所が判断することになります。

長期間経過後に発見された場合の問題点

相続開始から長期間が経過した後に遺言書が発見された場合、さまざまな問題が生じる可能性があります。まず、財産状況の変化への対応が課題となります。不動産の価値が大きく変動していたり、株式や預金などが既に処分されていたりする可能性があります。このような場合、遺言書の内容通りに遺産を分割することが困難になります。

 

すでに処分された財産の扱いも問題になります。例えば、遺言書で特定の相続人に相続させるとされていた財産が既に売却されている場合、その対応は複雑です。可能であれば、売却代金を基に精算するなどの対応が考えられますが、相続人間の話し合いが必要になるでしょう。

 

ほかに、各種権利の時効の問題も考慮する必要があります。たとえば、遺言自体に時効はありませんが、遺言で遺留分が侵害されていることが判明したときは、これを知ったときから1年以内に不足分の請求を行わなければなりません。以上のように、対応が複雑になるため、弁護士などに相談する等して、慎重に検討した方が良いでしょう。

まとめ

遺産分割を終えたのに遺言書が後から出てきたケースでは、基本的には財産の分配をやり直す必要があります。やり直さなくてもいいのは、第三者への遺贈がなく、相続人全員が最初に行った遺産分割で納得している等一定の条件が認められる場合です。

 

万一のときには、見つかった遺言書の取扱いも問題になり、検認など正しい手順を踏んでほかの相続人と内容を共有しなければなりません。さらに、長期間経過してから見つかった遺言書は、すでに費消してしまっている相続財産の取扱いなども問題になります。分からないことがあれば、すぐに弁護士などの専門家に相談するのが無難です。

投稿者: 西法律事務所(厚木市)

相続放棄で借金は消える?相続放棄の基本と借金の行方を解説

2025.05.26更新

親が亡くなった後で思いがけない借金が発覚し、返済義務を負うことになるのではないかと不安を感じている方は少なくありません。このような場合に検討したい選択肢が「相続放棄」です。相続放棄をすれば借金の返済義務から解放されますが、一方で相続できる財産も失うことになります。この記事では、相続放棄の基本的な仕組みから手続方法、注意点までを詳しく解説します。

相続放棄とは

相続放棄は、被相続人(亡くなった人)の権利義務を一切承継しない選択をするための法的手続きです。相続には、預貯金や不動産といったプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も含まれます。相続人は、これらの財産を相続するか放棄するか、熟慮期間内に判断することが求められます。

相続放棄で借金から解放されるしくみ

相続放棄をすると、相続人としての地位は失われます。これにより、プラスとマイナス双方の相続財産を一切承継しない効果が生まれ、被相続人の借金から完全に解放されます。放棄できる借金に例外はなく、住宅ローンや消費者金融からの借入、事業資金の借入、滞納税金や滞納家賃などが、亡くなった人名義の債務すべてに及びます。

相続放棄の手続方法

相続放棄の手続は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に「相続放棄の申述」を行うことで進めます。申述は相続人それぞれが個別に判断して行う手続であり、ほかの相続人の意向に縛られることはありません。手続にあたっては、所定の申述書のほかに、相続関係を示す戸籍謄本などが必要です。

相続放棄の期限は3か月以内

相続放棄は「自己のために相続が開始したことを知った日」から3か月以内に行わなければなりません。この期間は「熟慮期間」と呼ばれます。なお、相続財産の調査に時間がかかるなど、やむを得ない事情がある場合は、家庭裁判所に申し立てることで期限の伸長が可能です。

相続放棄すると借金はどうなる?

相続放棄によって借金の承継を免れることはできますが、その借金が消えてなくなるわけではありません。借金から完全に逃れたい場合には、相続人全員ここでは、相続放棄後の借金の行方について詳しく解説します。

次順位の相続人に借金が引き継がれる

相続放棄をすると、その相続人の相続分は次順位の相続人に移ります。法定相続人の順位は、配偶者と同順位で第1順位が子(または代襲相続人としての孫)、第2順位が父母、第3順位が兄弟姉妹と定められています。相続放棄した人の相続分は、同順位または次順位の相続人で分けることになります。

基本的には法定相続人全員で放棄する必要がある

相続放棄は相続人それぞれが個別に判断できる手続ですが、借金の返済義務から確実に解放されるためには、法定相続人全員で相続放棄するのが適切です。複数人による同時の相続放棄は、代表者がそれぞれの必要書類を集めて提出することで行えます。

相続放棄と代襲相続の関係

相続放棄をした場合、その人の子に相続権が移る「代襲相続」は発生しません。放棄によって相続人の地位を失い、卑属(子や孫)への権利の承継が止まるためです。

 

一方、相続欠格(重大な非行により相続権を失うこと)の場合は代襲相続が発生し、相続権は相続欠格者の子に移ります。このため、相続放棄をした場合、相続人の子が借金を承継する心配はありません。

全員が相続放棄した場合の借金の行方

法定相続人全員が相続放棄をすると、相続財産は法人として扱われる「相続財産法人」となります。この場合、利害関係人または検察官の申立てにより、家庭裁判所が相続財産管理人を選任します。相続財産管理人は、債権者への弁済など相続財産の清算手続を進めることになります。

 

相続財産管理人が選任された後は、官報による相続人捜索の公告、特別縁故者への財産分与、そして最終的な国庫帰属という流れで手続が進みます。相続債務は、相続財産の範囲内で清算されることになり、その額を超える部分については債権者が損失を負担することになるのです。

相続放棄のメリット・デメリット

相続放棄には、借金の返済義務から解放されるというメリットがある一方で、プラスの財産も一切相続できなくなるというデメリットがあります。また、ほかの相続人への影響も考慮しなければなりません。相続放棄は一度行うと取り消すことができないため、メリット・デメリットをしっかりと把握した上で判断を行う必要があります。以下で、それぞれのポイントを詳しく解説していきましょう。

メリット:借金の返済義務から解放される

相続放棄の最大のメリットは、被相続人名義の債務から完全に解放されることです。相続放棄が認められると、住宅ローンや消費者金融からの借入れ、事業上の債務など、被相続人が負っていた一切の債務について返済義務を負わなくて済みます。債権者からの督促や取立ての心配もありません。

 

上記のような効果は、相続人自身の経済的な破綻を防ぐことにもつながります。万一、相続人自身の資力で返済できない多額の債務を相続してしまうと、最悪の場合、自己破産せざるを得なくなる可能性もあるでしょう。相続放棄によってこうしたリスクを回避し、相続人本人とその家族の生活を守ることができます。

デメリット:プラスの財産も相続できなくなる

相続放棄のデメリットとして最も大きいのは、プラスの財産も一切相続できなくなることです。預貯金や不動産はもちろん、有価証券や骨董品なども相続する権利を失います。また、相続放棄後に新たな財産が見つかった場合でも、その財産を相続することはできません。

 

もっとも、生命保険契約によって給付される死亡保険金や、死亡退職金については、例外となる場合があります。上記契約による保険金請求権は、相続財産ではなく、受取人固有の権利となるためです。

デメリット:ほかの相続人とのトラブルになる可能性がある

相続放棄は他の相続人にも大きな影響を及ぼします。一部の相続人が放棄すると、残りの相続人の相続分が再計算され、結果として負担が増えることになります。特に相続税については、課税対象となる財産の総額は変わらないものの、相続人の数が減ることで一人当たりの負担額が増加する可能性があります。

 

また、事前の説明が不十分な場合、突然の相続放棄によって親族関係が悪化するリスクもあるでしょう。このようなトラブルを防ぐためにも、相続放棄を検討する際は他の相続人への事前説明を丁寧に行い、十分な話し合いの機会を設けることが大切です。

借金を理由とする相続放棄の手続方法

相続放棄の手続は、必要書類を揃えて家庭裁判所に申述を行うことで進めます。手続には期限があり、申述書の作成や必要書類の収集には一定の時間がかかるため、計画的に進める必要があります。ここでは、相続放棄の具体的な手続の流れと必要書類について解説します。

相続放棄の申述の流れ

相続放棄の申述は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所で行います。相続放棄申述書と必要書類を揃えて提出し、書類が不備なく受理された場合には、家庭裁判所から照会書が送られてきます。これは放棄の意思を最終確認するための書面であり、返送期限内に回答を行う必要があります。

 

照会書への回答後、問題がなければ相続放棄申述受理通知書が交付されます。手続全体には通常1か月から2か月程度の期間がかかります。なお、債権者などに相続放棄の事実を証明する必要がある場合は、別途申請することで受理証明書を取得することもできます。

相続放棄申述書の書き方

相続放棄申述書には、申述人の基本情報(本籍、氏名、住所、職業、電話番号)と被相続人の情報(本籍、氏名、最後の住所、死亡年月日)を記入します。申述の理由は、あらかじめ用意された選択肢から該当するものを選びます。

 

相続財産の概要については、把握できている範囲で記載すれば構いません。署名は必ず自署で行い、認印で押印します。記入内容を訂正する場合は、訂正箇所に二重線を引いて訂正印を押すという一般的な方法で行います。書式は家庭裁判所のウェブサイトからダウンロードできるほか、裁判所の窓口でも入手可能です。

収集する必要書類一覧

相続放棄の申述には、相続放棄申述書のほか、親族関係を証明する戸籍関係書類と被相続人の死亡を証明する書類が必要です。必要な書類は申述人と被相続人の続柄によって異なりますが、すべての場合に共通して必要な基本書類があります。

共通の必要書類

  • 相続放棄申述書(収入印紙800円分必要)
  • 申述人の戸籍謄本
  • 被相続人の住民票除票または戸籍附票

続柄別・追加で必要となる書類

配偶者が申述する場合

被相続人の死亡記載のある戸籍謄本または除籍謄本

子が申述する場合
  • 被相続人の死亡記載のある戸籍謄本または除籍謄本
  • 代襲相続人(孫)の場合は、被代襲者(子)の死亡記載のある戸籍謄本も必要
父母・祖父母が申述する場合
  • 被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本
  • 被相続人の子(およびその代襲者)で死亡している人がいる場合は、その出生から死亡までの戸籍謄本
  • 被相続人の直系尊属で死亡している人がいる場合は、その死亡記載のある戸籍謄本
兄弟姉妹が申述する場合
  • 被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本
  • 被相続人の子(およびその代襲者)で死亡している人がいる場合は、その出生から死亡までの戸籍謄本
  • 被相続人の直系尊属の死亡記載のある戸籍謄本
  • 代襲相続人(甥・姪)の場合は、被代襲者の死亡記載のある戸籍謄本

なお、戸籍謄本は1通450円から750円程度、住民票除票は1通300円程度の手数料がかかります。書類の取得は本籍地や最後の住所地の市区町村役場で行います。また、家庭裁判所から求められた場合は、相続関係説明図の提出も必要になります。

相続放棄する前に確認すべきポイント

借金が多くすぐに相続放棄したほうがいいと判断できる状況でも、後悔がないよう、事前に十分な確認と準備を行いましょう。とくに重要なのは、被相続人の財産状況を正確に把握することと、手続完了までの間に相続放棄の効力を失わせるような行為を避けることです。ここでは、相続放棄前に確認しておくべきポイントを解説します。

事前に財産調査を徹底する

相続放棄の申述がひとたび受理されると、撤回することは不可能です。借金ばかりに目を向けず、利益につながる財産がないか、あらかじめ徹底的に調査しておきましょう。調査には1か月程度かかることも多いため、3か月の期限を考慮して早めに着手することが重要です。

借金そのほかの債務の弁済に応じない

相続放棄を検討している場合は、被相続人の借金の返済に応じてはいけません。一部でも支払いに応じると債務を承認したとみなされ、相続放棄ができなくなるリスクがあります。債権者から督促があった場合は、相続放棄を検討中である旨を伝え、手続が完了するまで支払いを保留してもらいましょう。

 

もっとも、葬儀費用など社会通念上相当な範囲の支払いについては、相続放棄の妨げにはなりません。また、固定資産税など財産の保存に必要な費用の支払いも認められます。

相続放棄に関するよくある質問

相続放棄をめぐっては、「一度した相続放棄を取り消せないか」「保証人になっている借金はどうなるのか」といった疑問が多く寄せられます。また、「どのような場合に相続放棄が認められないのか」という点も、多くの方が不安に感じているところでしょう。ここでは、相続放棄に関してよく寄せられる質問について、具体的に解説します。

相続放棄の取消し・撤回はできる?

すでに述べた通り、相続放棄の撤回は不可能です。ただし、例外的に、暴力や脅迫によって意思決定の自由を奪われた場合や、相続財産の内容について重大な誤解があった場合などは、錯誤による取消しが認められる可能性はあります。もっとも、単に「思っていた以上の財産が見つかった」といった程度では、取消しは認められないでしょう。

連帯保証の相続放棄はできる?

相続人が被相続人の連帯保証人になっている場合、相続放棄をしても保証債務からは解放されません。保証債務は保証人固有のものであり、相続放棄の対象とはならないためです。ただし、住宅ローンなど団体信用生命保険が付保されている借入れについては、被相続人の死亡により債務が免除される場合があります。保証債務が残る場合は、債権者と分割返済などの交渉を行うことも検討に値するでしょう。

まとめ

相続放棄は、被相続人の借金から解放される有効な手段です。しかし、一度行うと取り消すことはできず、プラスの財産も相続できなくなります。また、手続には3か月という期限があり、財産の処分など一定の行為があると認められなくなるなど、さまざまな制約もあります。

 

放棄が上手くいかなかったり、後悔したりするようなケースは、基本的にあってはならないものです。迷ったときは、弁護士や司法書士に相談することで、適切な判断のもと確実に手続を進められます。

投稿者: 西法律事務所(厚木市)

相続人と連絡がとれない場合はどうする?相続手続の扱い方と対応方法

2025.05.26更新

相続人同士で話し合って遺産の取り分を決めるときは、相続人全員が揃わなくてはなりません。ところが、一部の相続人と何らかの理由で連絡がとれず、上記要件を満たせないことがあります。その状況は、単に電話や手紙に応じない場合から、住所が分からない場合まで、実にさまざまです。連絡のとれない相続人がいる状況で手続を進めるには、どうしたら良いのでしょうか。

連絡のとれない相続人がいる場合の対応の考え方

遺産分割協議により相続手続を進めるときは、相続人全員が揃っている必要があります。ここで問題になるのが、連絡がとれない相続人がいるケースです。この場合、基本的には、連絡がつくまで待たなくてはなりません。万一の場合の対応については、次のように考えます。

音信不通が確定するまで連絡を試みる必要がある

連絡の取れない相続人がいる場合、まずは粘り強く連絡を試みることが重要です。複数の連絡手段を使い、定期的にアプローチすることが求められます。電話、手紙、メールなど、できる限りの方法を試してみましょう。また、連絡を試みた日時や方法、結果などを詳細に記録しておくことも大切です。これは後々、どうしても相続人と連絡がとれなかったときの対応で必要となる可能性があります。

遺言書があれば連絡できなくても手続可

有効な遺言書がある場合、連絡の取れない相続人がいても、相続手続を進められます。遺言書に基づいて遺産の名義変更を行っていくだけなので、他の相続人の協力は必要ではないからです。

 

ただし、注意が必要なのは、遺言の内容が連絡の取れない相続人の遺留分を侵害している可能性がある場合です。このような場合、連絡の取れない相続人に遺留分侵害額請求を行う機会を与えなければ、後に損害賠償請求をされる恐れがありますので、相手が連絡を取り合うことを避けているような状況でも、遺言の内容だけでも伝えておいた方が良いでしょう。

勝手に相続手続を始めた場合のリスク

連絡の取れない相続人がいるにもかかわらず、勝手に相続手続を進めてしまうことは大きなリスクを伴います。大前提として、連絡の取れない相続人が一人でもいると、遺産分割協議を有効に成立させることができません。何とか協議を終えて遺産の名義変更を行おうとしても、有効な遺産分割協議書を用意できないことから、銀行などでの手続に対応してもらえないのが普通です。

 

ただ、上記のように相続人が欠けている状況でも、何らかの理由で手続を進めてしまえる可能性があります。その場合には、以下のようなリスクに晒されます。

相続トラブルの発生

連絡の取れなかった相続人が後から現れ、遺産分割協議無効確認の訴え、損害賠償請求などの法的措置を取られる可能性があります。

遺産分割のやり直し

無効な遺産分割協議に基づいて行われた手続は、すべてやり直しになります。

相続税の修正申告

すでに相続税の申告を行っていた場合、修正申告が必要になる可能性があります。

 

これらのリスクを避けるためにも、連絡の取れない相続人がいる場合は、必ず専門家に相談し、適切な対応を取ることが重要です。安易に手続を進めることは、将来的に大きな問題を引き起こす可能性があることを認識しておきましょう。

連絡が取れない相続人の対応方法

先に述べた通り、連絡が取れない相続人に対しては、何とか対応してもらえるよう交信を試みるほかありません。確実なのは、今の居所を突き止めて、記録が残る形で書面を送ってみる方法です。居所を調べる方法としては、次のようなものが挙げられます。

戸籍附票で住所を確認する

戸籍附票とは、戸籍に載っている人物の住所移転の記録を掲載するもので、本籍地の市区町村役場で写しを取得することができます。内容は住民票の情報と連動しているため、記録上の最新の住所を知る手段になります。

 

問題になるのは、戸籍附票の取得方法です。連絡がとれない相続人と同じ戸籍にいる人が請求すれば、自分たちの住所情報とともに相手方の住所も知ることが出来るでしょう。しかし、相手方が別の戸籍にいる場合は、第三者請求と呼ばれる扱いになります。ただし、遺産分割協議に必要であることを理由として請求すれば、正当な利害関係があるとみなされ、第三者請求であっても戸籍附票の取得が認められます。

親族や知人へ聞き込みを行う

戸籍附票など公的資料による調査が難しい場合、親族や知人への聞き込みが有効な手段です。聞き込みを行う際は、最後に連絡を取っていた人を優先的に対象としつつ、ほかに親しい関係にあった人々にも積極的にも聴取を試みましょう。

 

聞き込み対象者に対しては、相続手続のために連絡を取る必要があることを説明するだけで構いません。本人に伝えてほしいと依頼すれば、事情を理解して相手方から連絡が来る可能性もあります。

判明した住所に手紙を送ってみる

住所が判明した場合、まずは手紙を送ることから始めましょう。これは、連絡に応じない相続人への効果的なアプローチ方法の一つです。手紙の内容には、相続の事実、相続手続への協力を得たい旨、連絡の必要性などを明確に記載します。また、連絡方法や期限なども具体的に示すことが重要です。

 

手紙を送る際は、追跡できる方法による送付か、配達証明を利用することをおすすめします。これにより、相手が確実に受け取ったかどうかを確認することができます。手紙の配達状況は、どうしても連絡がとれなかったときの法的な対応にも役立つでしょう。

実際に訪問してみる

最後の手段として、実際に判明した住所を訪問してみることも考えられます。訪問の最大の効果は、相続人が実際にその住所に居住しているかどうかをすぐに確認できることです。また、運良く会うことができれば、相続手続への協力の必要性を直接訴えることができます。

 

訪問する際は、事前に十分な準備をしておくことが大切です。身分証明書や相続関係を示す資料(被相続人の戸籍謄本など)を持参し、自身の立場を明確にできるようにしましょう。また、相手が不在の場合に備えて、相続手続への協力を求めるメモを用意しておくとよいでしょう。

どうしても相続人と連絡がとれないときの解決方法

相続人との連絡が取れない状況が続く場合、法的対応を検討する必要があります。状況に応じて、遺産分割調停の申立て、不在者財産管理人の選任申立て、失踪宣告の申立てなど、いくつかの選択肢があります。

遺産分割調停の申立て

不仲などを理由に頑なに連絡に応じない相続人がいる場合、遺産分割調停は有効な手段です。相続人本人からの連絡は無視しても、裁判所から呼出状が来れば調停に出席するという人は珍しくありません。
調停では、裁判所の調停委員を交えて話し合いを進めますので、当事者同士で話し合うよりも話がまとまりやすいことは確かです。また、調停が成立した場合、合意した内容が調停調書という書類に記載され、この調停調書があれば不動産の名義変更や預金口座の解約など相続手続を進めることができるので便利です。

 

調停を行っても話がまとまらなかった場合や、裁判所から呼出状を送っても一部の相続人が調停に出てこない場合は、基本的には審判に移行することになります。
審判では、出席した相続人の主張や遺産の種類・内容などを考慮して、裁判所が遺産分割の内容を決定します。従って、審判になれば、一部の相続人が話し合いに応じなくても、最終的に遺産分割が終了することになります。ただ、審判に移行した場合で、遺産に不動産が含まれている時などは、相続人全員の共有にするという審判が出ることもあり、根本的な解決にはならないケースもあります。その意味では、交渉や調停など話し合いで遺産分割を決定する方が望ましいと言えます。

不在者財産管理人の選任申立て

不在者財産管理人とは、従来の居所を去って行方が分からなくなった人の財産を管理する者のことで、家庭裁判所が選任します。選任の申立ができるのは不在者の利害関係者で、管理人は弁護士や司法書士などの中から選ばれます。選任された不在者財産管理人が、自身の権限に基づいて遺産分割に加われば、相続手続を進めることができるでしょう。

 

遺産分割に不在者財産管理人を加えるにあたっては、注意点があります。遺産分割協議に参加して相続権を処分することは、不在者の利益を損ねる可能性のある権限外行為にあたるため、家庭裁判所から別途許可を得る必要がある点です。

失踪宣告の申立て

失踪宣告は、一定期間行方不明の状態が続いている人を法律上死亡したとみなす制度です。利害関係人が家庭裁判所に申し立てることにより、普通失踪の場合は7年以上生死不明であることを条件に認められます。失踪宣告が認められた場合は、その人は死亡したものとみなされますので、代襲相続人もしくは失踪者の相続人との間で遺産分割協議を進めることになります。

 

ただし、失踪宣告後に本人が現れた場合は、失踪宣告を取り消すことができる点に注意を要します。この場合、相続財産の返還を請求されるなど、ややこしいことになります。

遺産分割をしないままにするデメリット

遺産分割を先延ばしにすることは、さまざまな問題を引き起こす可能性があります。連絡が取れない相続人がいるからといって、遺産分割を放置することは決して望ましい選択ではありません。遺産分割を行わずに放置することで生じる主なデメリットは、次の通りです。

預貯金を下ろせない

遺産分割が完了しないと、被相続人名義の預貯金口座からの引き出しが制限されます。2019年7月から施行された民法改正により、預貯金の仮払い制度が導入されましたが、その上限額は預貯金残高の3分の1に法定相続分を乗じた額(1つの金融機関につき150万円まで)とわずかです。この金額を超える預貯金は、遺産分割が完了するまで引き出すことができません。

 

預貯金を下ろせなければ、亡くなった人の資力で生活していた相続人の生活への影響は避けられません。また、相続財産の管理費用が支払えなくなり、そのあいだに荒廃が進む恐れもあります。

不動産の活用が困難になる

被相続人が所有していた不動産は、相続を原因とする所有権移転登記が完了するまで、相続人の判断で処分することができません。少なくとも、登記申請の条件となる遺産分割協議の成立までの間は、第三者への売却やリフォームが出来なくなってしまうのです。

 

ここで問題なのが、土地や建物は維持管理を必要とする財産であり、売却のタイミングによって価格が変わる性質も持つことです。収益が得られないあいだに固定資産税の支払いに困ったり、管理費用まで支払えなくなったり、売却時期を逃して安くなってしまったりする恐れがあります。

相続税申告で不利になる

遺産分割が完了しないと、相続人それぞれの具体的な相続分に基づいた相続税の申告ができません。相続開始から10ヶ月以内に相続税の申告を行う必要がありますが、遺産分割が完了しない場合は、とりあえず未分割で申告しておいて、最終的には法定相続分に基づいて申告することになります。

 

適切に遺産分割してから相続税申告をすることができないとなると、税制上損をすることになる可能性があります。税額を抑える効果のある「小規模宅地等の特例」や「配偶者の税額の軽減」など、誰に財産が帰属するかを基準とする制度の適用ができなくなるためです。

二次相続の発生で権利関係が複雑になる

遺産分割ができない状況が長期化すると、その間に相続人が亡くなってしまう可能性があります。ほかに、高齢化のため、自分で相続権を行使するための判断能力が失われてしまう場合もあります。このような状況に陥った場合、数次相続(数回分の相続)の対応を行ったり、成年後見制度を利用したりしなければなりません。

 

また、二次相続・三次相続と次々に相続が発生する場合、相続人がねずみ算式に増加することも無視できません。増加した相続人は、お互いの関係性が薄く、連絡のとれない人が新たに現れる可能性が捨てきれないでしょう。

相続登記の義務化に伴う罰則が科されることがある

2024年4月1日から、相続による不動産の取得を知った日から3年以内に相続登記を申請することが義務付けられます。この義務に違反した場合、10万円以下の過料が科される可能性があります。基本的には、期限内に遺産分割を終わらせ、登記まで完了させなくてはなりません。

 

現在、相続登記義務化への対応策として「相続人申告登記」という制度が設けられています。これは、相続人が自分の相続人としての地位を登記することで、義務を果たしたとみなされる制度です。ただし、この登記をしても、最終的には遺産分割を行い、確定した相続人に所有権移転登記を行う必要があります。

まとめ

連絡のとれない相続人がいる状況だと、協議による遺産分割は進められません。電話・手紙・訪問などによって何とか連絡を取ってみる、戸籍附票から住所を辿ってみるなどの方法で、相手と交信できる状況にする必要があります。どうしても連絡がつかない・応じないようなら、遺産分割調停や、不在者財産管理人制度を活用した遺産分割協議などの手段を検討すべきでしょう。

 

住所調査や相手方と連絡をとる作業は、相続が発生した直後のように混乱が大きい状況だと、余計に負担が重くなります。相手方と不仲などの理由で連絡がとれない状況なら、代理人を立てた方が速やかな対応ができる可能性が高まります。困ったときは、早々に弁護士などの専門家に相談することで、解決の糸口が見つかります。

投稿者: 西法律事務所(厚木市)