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弁護士ブログ

遺留分とは?相続トラブルを防ぐための基礎知識と対策

2025.05.26更新

遺言書を作成する時は遺留分と呼ばれる最低限の権利を下回らないようにする必要があります。遺言で不公平な財産の分配が行われた場合には、遺留分侵害額請求と呼ばれる権利が認められます。生前対策では遺留分を侵害しないように注意が求められ、相続トラブルでは「自分の最低限の取り分がいくらなのか」を知らなくてはなりません。それでは、遺留分とはどのようなもので、具体的にはいくらになるのでしょうか。

遺留分とは

遺言が作成されたり、生前贈与がされているときに一定範囲の相続人に対し、最低限の取り分である「遺留分」の保障があります。万一にも遺留分が不足するときは、その足りない分について遺留分侵害額請求権(旧:遺留分減殺請求権)も認められます。相続分を巡るトラブルの解決のため、以下に解説するポイントを基礎知識として押さえておきましょう。

遺言よりも優先される

相続人各人に認められる遺留分は、遺言で侵害することができません。遺留分を侵害する内容の遺言でも有効性に影響はありませんが、不足した遺留分の請求が認められることによって、亡くなった人が想定していた遺産分割は結果として実現しません。具体的には、一定の高額財産を特定の相続人に相続させる旨の遺言や、相続人でない人への高額な贈与が記載された遺言が挙げられます。

間違えやすい遺留分と法定相続分の違い

遺留分と法定相続分はときどき混同されますが、全く違うものです。法定相続分とは、遺産分割にあたっての基準となる割合であり、遺言が存在しない場合に意味を持ちます。
これに対して遺留分は、遺言や生前贈与が存在する時の相続人各人の最低限の取り分です。

遺留分は放棄できる

遺留分は権利者の意思で放棄することができます。遺留分の放棄は、被相続人の生前と死後のどちらでも可能です。生前に放棄する場合は、家庭裁判所の許可が必要となります。一方、死後の放棄は特別な手続きは不要で、侵害した者に対して遺留分を請求しない旨の意思表示をするか、後述する遺留分を請求出来る期間内に遺留分を請求しなければ足ります。いずれにせよ、一旦遺留分を放棄する旨を意思表示をした場合は撤回・取消しが難しくなるため、遺留分の放棄は慎重に行う必要があります。

2019年の法改正による重要な変更点

2019年の民法改正により、遺留分に変更がありました。重要なのは「遺留分減殺請求」から「遺留分侵害額請求」に変更されたことです。これにより、遺留分を侵害された相続人は、財産そのものの取り戻しではなく、金銭での支払いを請求できるようになった点です。この変更で、相続トラブルが起こったときに金銭による早期の紛争解決が期待できるようになりましたが、一方で、遺留分を請求する権利を行使する際に、これが金銭債権における消滅時効(5年)にかかるようになったのは注意したいポイントです。

遺留分が認められる相続人の範囲

遺留分は、相続人の生活を保障するために設けられた制度です。しかし、すべての相続人に遺留分が認められているわけではありません。遺留分が認められる相続人の範囲は法律で明確に定められており、その範囲に含まれる人だけが遺留分の権利を主張することができます。

遺留分が認められる人・認められない人

法律上相続人とされるのは、配偶者を筆頭に、①子・②直系尊属(父母や祖父母のうち最も親等が近い者)・③兄弟姉妹(兄弟姉妹が死亡している時は甥姪)です。これらの法定相続人のうち、遺留分が認められるのは、配偶者・子・直系尊属のみとなります(兄弟姉妹は認められません)

 

とくに、配偶者および子については、その生活を保護する必要が高いと考えられ、遺留分の計算においても優遇されます。その詳細は、遺留分の金額・割合の章で解説します。

代襲相続が起きた場合はどうなる?

代襲相続とは、本来相続人となるべき者が相続開始以前に死亡している場合に、その者の子(被相続人から見て孫)が代わって相続人となることです。代襲相続の発生は、直系卑属の場合は孫・ひ孫……とのように何代でも続きますが、兄弟姉妹の場合は甥や姪などといった一代限りです。

 

代襲相続人は、原則として被代襲者(代襲される人)が持っていた権利を引き継ぎます。つまり、被代襲者に遺留分が認められていた場合、代襲相続人にも遺留分が認められます。ただし、兄弟姉妹の代襲相続人(甥・姪)については、代襲被相続人に遺留分の権利がないことから、必然的に遺留分の引き継ぎもありません。

相続放棄・相続廃除・相続欠格があった場合

相続放棄、相続廃除、相続欠格は、いずれも相続人としての権利を失うことから、遺留分も受け取れません(ただし、廃除・相続欠格がある時に代襲相続人が居れば代襲相続人に遺留分が認められます)。対象者以外の遺留分は、相続人の変更に伴う再計算が必要になります。たとえば、被相続人に配偶者と子2人がいた場合、子1人が相続放棄をすると、残りの配偶者と子1人で遺留分を再計算することになります。

遺留分の金額・割合の考え方

遺留分の金額や遺産全体に占める割合は、まず「遺留分算定の基礎となる財産の範囲」の特定から始まります。特定したあとは、遺留分の権利を有する人全員を合わせた割合にあたる「総体的遺留分」を判断し、続いて各人の「個別的遺留分」を判断することになります。順を追って解説すると、次の通りです。

遺留分算定の基礎となる財産

遺留分算定の基礎となる財産の範囲(=遺留分が侵害されたと主張できる財産の範囲)は、亡くなったときに有していた財産だけではありません。生前贈与についても、下記で説明する範囲で遺留分を計算する際に含めることが可能です。

遺留分算定の基礎となる財産

  • 亡くなった時点で有する財産
  • 相続開始前1年間に行った贈与
  • 相続開始前10年間に行った特別受益にあたる贈与
  • 遺留分が侵害されることを知ってなされた贈与(上記期間内に限られない)

ここで言う特別受益とは、相続人が被相続人から生前に受けた贈与などを指します。これらは遺留分算定の基礎財産に含まれ、特別受益の持戻しの免除(遺産分割のときに遺産から除外する意思を示すこと)の効果は遺留分には及びません。

 

なお、上記の財産の範囲には、完済前の借金なども含まれ、これら相続した債務は遺留分算定の基礎となる財産から控除されます。一方で、葬儀費用に関しては、遺言書による指定・相続人全員の同意などがなければ、控除は行いません。

遺留分の計算方法

算定の基礎となる財産の範囲が分かったときは、相続人の構成に応じ、左記に一定の割合を適用することで遺留分の額が分かります。最初に、遺留分の計算方法を式で示しておくと、次の通りです。

 

遺留分の金額 = 遺留分算定の基礎となる財産 × 総体的遺留分の割合 × 法定相続分

総体的遺留分の計算

算定の基礎となる財産に占める総体的遺留分の割合は、配偶者や子の有無で変化します。保護の必要性が高い場合には2分の1、そうでない場合は3分の1と考え、相続人の構成で示すと次のようになります。

総体的遺留分の割合
  • 配偶者や子が相続人である場合:2分の1
  • 直系尊属のみが相続人である場合:3分の1

個別的遺留分の計算

個別的遺留分は、相対的遺留分に法定相続分を乗じた割合です。同順位の相続人に関しては、個別的遺留分を均等に割って取得します。例を2つ挙げてみましょう。

 

※A = 遺留分算定の基礎となる財産

 

【例1】配偶者と2人の子が相続人である場合

配偶者の個別的遺留分

A × 2分の1(総体的遺留分)× 2分の1(法定相続分)

子の個別的遺留分

A × 2分の1(総体的遺留分)× 2分の1(法定相続分)× 2分の1

【例2】父母が相続人である場合

各相続人の個別的遺留分

A × 3分の1(総体的遺留分)× 2分の1

遺留分割合の計算例と早見表

算定の基礎となる財産に占める各人の遺留分の割合は、相続人の組み合わせにより固定されます。個別的遺留分の計算まで行った結果を、基礎となる財産に対する割合で示すと、下の表の通りとなります。具体的な金額については、自分で計算を行うと不正確になる恐れがあるため、表は目安だと考え、専門家に相談すると良いでしょう。

 

法定相続人の組み合わせ 配偶者 子※ 直系尊属※ 兄弟姉妹
配偶者と子 4分の1 4分の1
配偶者と直系尊属 3分の1 6分の1
配偶者と兄弟姉妹 2分の1 なし
配偶者のみ 2分の1
子のみ 2分の1
直系尊属のみ 3分の1
兄弟姉妹のみ なし

※同順位の相続人が複数いる場合は、表にある割合を頭数で均等に割ります。

遺留分が不足する場合の対応方法

遺言や生前贈与によって遺留分が侵害されていることが判明した場合は、遺留分侵害額請求を行う権利が発生します。生前贈与や高額な相続・遺贈を受けた人に対して、不足した遺留分を金銭で支払うよう求める権利です。その対応にあたっては、以下のようなポイントがあります。

遺留分を請求できる期間

遺留分を請求できる期間は、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知った時から1年間です。この消滅時効のほかに、相続開始の時から10年を経過したときも、遺留分を請求できる権利は消滅するとされます(除斥期間)。したがって、遺留分侵害の可能性を感じた場合は、速やかに行動を起こすことが重要です。

書面で不足分を請求する

遺留分侵害額請求は手始めに書面を送付するのが普通です。遺留分を請求出来る期間内に請求したことを明らかにする為、内容証明郵便、さらに配達証明を使うと良いでしょう。書面に記載すべき内容としては、遺留分侵害の指摘や、請求金額、その算定根拠や、返信すべき期間などがあります。自分で請求するのは難しいと考える場合は、弁護士などの専門家に相談しましょう。

遺産分割調停で協議を続ける

書面や口頭での遺留分請求が不調に終わった場合、次の段階として家庭裁判所で調停を申し立てます。調停では、調停委員が双方の言い分を聞き、成立に向けて仲介・調整を図ってくれます。裁判所が判断を下してくれるわけではありませんが、当事者だけで話し合う場合に比べて、解決がスムーズになるメリットがあります。

遺留分侵害額請求訴訟を提起する

調停で解決できない場合、最終的な手段として遺留分侵害額請求訴訟を提起することになります。申立先は家庭裁判所ではなく、140万円以内であれば簡易裁判所、それ以上になる場合は地方裁判所となります。訴訟で解決を図るときに注意したいのは、遺留分侵害の証拠を用意する必要性や、言い分を法的に説明した書面が必要になったりする点です。こうした対応は、当事者だけだと難しく、弁護士による支援が求められます。

まとめ

遺留分は、遺言よりも優先される「最低限の取り分」であり、配偶者や子・直系尊属について認められています。遺留分が発生するのは一定範囲の生前贈与に及び、不足が発生する場合は「遺留分侵害額請求」が認められます。相続トラブルやその防止にあたっては、各相続人の遺留分を適切に判断し、それぞれ十分な額を受け取れる配慮が求められます。

 

遺言や生前贈与では、資産と家族構成によって適切な遺留分対策が分かれます。相続開始後のトラブルでは、交渉の方法と進め方が大切です。遺産の取り分で問題になったときや、問題に発展しそうなときは、弁護士などの専門家に相談するようにしましょう。

投稿者: 西法律事務所