遺言書が後から出てきたらどうする?遺産分割をやり直す必要性の判断基準
2025.05.26更新
目次
遺産分割を終えた後になって遺言書が見つかるケースは、決してないとは言えません。この場合、何年経とうと遺言書の効果は依然として生じるため、基本的には遺産分割をやり直す必要があります。ここでは、万一のときの具体的な対応方法も含めて、後から出てきた遺言書の取扱いを押さえましょう。
後から出てきた遺言書の法的な扱い
遺言書は亡くなった人の最終的な意思を反映するための書類で、遺言者(=遺言をした人)の死後すぐに効果を持ちます。実際には、遺言書の存在を知らないまま相続手続を進めてしまい、後になって遺言書が発見されるケースもあり得る話です。このような場合の対応方法を知るために、まずは遺言書の扱いについて押さえましょう。
遺言は遺産分割協議より優先される
亡くなった人の財産について取り分を決める方法には、遺言と遺産分割協議の2つの方法があります。これらのうち優先されるのは、遺言の内容です。これは、被相続人の意思を最大限尊重するという法律の基本的な考え方に基づいています。
遺言書の効果に期限はない
有効な遺言書がある場合、その効果に期限はありません。被相続人の死後どれだけ時間が経過しても、遺言書は以前として効果を持ちます。例外として、より新しい日付の有効な遺言書が存在するケースもありますが、このケースでは、新しい方の遺言の効果が遺産分割協議に優先します。
遺産分割のやり直しが必要になるケース
亡くなった人の意思が最優先され、遺言書の効果が期限によって消滅しない以上、相続手続のあとになって遺言書が見つかれば、基本的には遺産分割をやり直す必要があります。とくに注意したいのは、遺言に沿った遺産分割を支持する関係者がいる場合や、相続財産をもらうべき人に変更がある場合です。
一部の相続人が遺言書に沿った分割を主張している
先に行った遺産分割が後で見つかった遺言書より優先されるのは、原則として、相続人全員が「それで問題ない」と判断しているときだけです。遺言の効果が生じている以上、誰かが「遺言書の通り遺産分割を」と望むのであれば、遺産の分配をやり直さなくてはなりません。
遺言執行者が指定されている
遺言執行者とは、遺言の内容を確実に実行するため遺言者もしくは家庭裁判所が指定する人物です。遺言執行者を指定する内容の遺言書が見つかったケースでは、後の対応が遺言執行者に指定されています。行われる判断としては「すでに行われた遺産分割協議を追認する」もしくは「遺言を執行する」のいずれかで、後者の判断になったケースでは、あらためて遺産の分配が実施されます。
相続人以外の第三者への遺贈がある
遺言書で第三者への贈与(遺贈)が指定されている場合、対象の財産は、受遺者(遺贈を受ける人)に移転するはずです。遺贈があるにも関わらず、遺産分割協議で相続人がその財産を取得してしまった場合、法的には問題が生じます。先に示された遺贈は有効なのに、その遺贈の分も相続人が受け取っていることになるからです。このような場合、受遺者の権利を尊重し、遺言の内容に沿った形で財産の再分配を行わなければなりません。
相続人の廃除や認知に関する記述がある
遺言による相続人の廃除(あるいは廃除の取消し)や、子の認知があった場合、相続人の範囲に変更が生じることになります。ある相続人が廃除されれば相続権を失い、逆に認知された人が新たに相続人となるイメージです。このように相続人に変更があった場合、その変更を反映していない状態で行われた遺産分割協議は参加者に過不足があったものとして無効になり、遺産分割をやり直す必要があります。
遺産分割のやり直しをしなくても良いケース
遺言書が後から見つかったからといって、必ずしも遺産分割をやり直す必要があるわけではありません。状況によっては、既に行われた遺産分割を維持することも可能です。具体的には、そもそも遺言書に効力がないケースや、相続人の合意があるケースなどが挙げられます。
遺言書が無効である
遺言書が無効である場合、その内容に基づいて遺産分割をやり直す必要はありません。遺言書の無効事由には主に以下のようなものがあります。先に具体例を挙げておくと、認知症が進行した状態で作成された遺言書や、日付や押印が欠けている自筆証書遺言などが考えられます。
遺言能力の欠如
遺言者が遺言作成時に十分な判断能力を有していなかった場合を指します。
方式違背
法律で定められた方式(自筆証書遺言の場合は全文自筆、日付の記載、押印など)を満たしていない場合を指します。
遺言者の真意に基づかない作成
詐欺や強迫により作成された場合を指します。
なお、遺言書の無効を判断するにあたっては、最終的に地方裁判所(または簡易裁判所)で遺言無効確認請求訴訟を提起する必要があります。ここで無効が確定すれば、既に行われた遺産分割協議をそのまま維持することができます。
相続人全員の合意がある
後から遺言書が見つかった場合でも、とくに第三者への遺贈はなく、相続人全員が既に行われた遺産分割協議の結果を維持することに合意していれば、遺産の分配をやり直す必要はありません。遺言の内容に関わらず、その相続人らの合意が優先されます。
先に行った遺産分割協議を優先する旨の合意をとる際は、いくつかポイントがあります。まず、すべての相続人が遺言の内容を承知し、それぞれの自由な意思で判断することが重要です。次に、いったん合意しても、後から覆されてトラブルになる可能性は否めません。こうした点を踏まえると、できるだけ合意の内容を書面にしておくと安心です。
遺言の内容が遺産分割協議の結果とほぼ同じ
遺言の内容と遺産分割協議の結果が近い場合は、遺言の存在を知っていれば遺産分割の合意をしなかったであろうと言える場合かどうかが判断基準になります。協議で合意した内容と遺言とのあいだの違いがほとんどない状態なら、上記のように言うことはできず、遺産分割はやり直さなくても良いと考えられます。
問題は「ほぼ同じ」という基準は明確ではなく、個別のケースごとに判断する必要がある点です。例えば、財産の分配割合が若干異なる程度であれば「ほぼ同じ」と判断される可能性が高いと言えますが、特定の財産の帰属先が異なるような場合は、より慎重な判断が必要になるでしょう。
遺言書発見後の具体的な対応手順
遺言書が後から発見された場合、適切な手順で対応することが重要です。基本的には、家庭裁判所の検認を経て、相続人全員に遺言の内容を通知する手順となります。何よりも大切なのは、見つかった遺言書を勝手に開封しないことです。順を追って対応方法を確認してみましょう。
家庭裁判所での検認を申し立てる
遺言書が見つかったら、未開封の状態で確保し、速やかに家庭裁判所へ「検認」と呼ばれる手続の申立てをすべきです。(封がされていない遺言書も検認の手続きは必要です)検認とは、相続人の立ち会いのもとで開封を行い、遺言書の存在と内容を明らかにし、遺言書の偽造や変造を防ぐ手続です。公正証書遺言および法務局の保管制度を利用した自筆証書遺言以外は、上記の手続が必要とされます。
遺言書の有効性を確認する
検認を経た遺言書は、形式面と内容が効果を持つものかチェックします。とくに、内容が不明瞭だったり、訂正された痕跡があったり、入院中・療養中に作成されている可能性があったりするものは、慎重に確認する必要があります。判断できないときは、専門家に相談し、内容をチェックしてもらうと良いでしょう。
相続人全員に遺言の内容を知らせる
検認の手続きでは裁判所から各相続人に検認の期日の通知が行きますので、手続きに出席した相続人はその場で遺言書の内容を確認する事ができます。
検認手続きに参加しなかった相続人に対しては、遺言書の写しを送付してあげると良いでしょう。
相続人間の信頼関係を維持するためにも、できるだけ早く行うことが大切です。
遺産分割のやり直しについて話し合う
遺言書の内容に基づいて遺産分割をやり直す必要がある場合は、相続人全員で話し合いを行います。話し合いの進め方としては、以下のポイントに注意しましょう。
- 中立的な場所で話し合いを行う
- 各相続人の意見を平等に聞く
- 感情的にならず、冷静に議論する
合意形成のためには、遺言者の意思を尊重しつつ、各相続人の事情も考慮することが大切です。難しいと感じたときは、弁護士を代理人としたり、アドバイスを得たりすることで、円滑に話し合えるようになります。
遺言書を見つけたときの留意点
遺言書を発見した人は、書面の重要性の高さゆえに、適切に扱う義務を事実上負うことになります。発見したときの状況も、あまりに長い時間が経っていたり、相続放棄した人がいたりするケースでは、個別の判断が求められます。留意点として具体的に説明すると、次の通りです。
遺言書を隠匿するのはNG
後から遺言書が見つかるケースでは、誰にも話さず自分の手元で保管する場合が見られます。結論から言えば、悪気がなくても「隠匿」とみなされるような行為は厳禁です。遺言書の隠匿は相続欠格事由に該当し、相続権を失う可能性があるためです。
遺言書は適切に保管し、速やかに開示することが重要です。発見した遺言書は、できるだけ早く他の相続人にも知らせ、家庭裁判所での検認手続きを行うべきです。その上で、万一にも他の相続人から遺言書の隠匿を疑われた場合は、誠実に対応することが大切です。
相続放棄した人がいる場合の対応方法
一部の相続人が相続放棄をした後に遺言書が見つかった場合、その対応は複雑になります。前提として、相続放棄の撤回は原則として認められません。ただし、錯誤による相続放棄の取消しが認められる可能性はありますが、これは個別に家庭裁判所が判断することになります。
長期間経過後に発見された場合の問題点
相続開始から長期間が経過した後に遺言書が発見された場合、さまざまな問題が生じる可能性があります。まず、財産状況の変化への対応が課題となります。不動産の価値が大きく変動していたり、株式や預金などが既に処分されていたりする可能性があります。このような場合、遺言書の内容通りに遺産を分割することが困難になります。
すでに処分された財産の扱いも問題になります。例えば、遺言書で特定の相続人に相続させるとされていた財産が既に売却されている場合、その対応は複雑です。可能であれば、売却代金を基に精算するなどの対応が考えられますが、相続人間の話し合いが必要になるでしょう。
ほかに、各種権利の時効の問題も考慮する必要があります。たとえば、遺言自体に時効はありませんが、遺言で遺留分が侵害されていることが判明したときは、これを知ったときから1年以内に不足分の請求を行わなければなりません。以上のように、対応が複雑になるため、弁護士などに相談する等して、慎重に検討した方が良いでしょう。
まとめ
遺産分割を終えたのに遺言書が後から出てきたケースでは、基本的には財産の分配をやり直す必要があります。やり直さなくてもいいのは、第三者への遺贈がなく、相続人全員が最初に行った遺産分割で納得している等一定の条件が認められる場合です。
万一のときには、見つかった遺言書の取扱いも問題になり、検認など正しい手順を踏んでほかの相続人と内容を共有しなければなりません。さらに、長期間経過してから見つかった遺言書は、すでに費消してしまっている相続財産の取扱いなども問題になります。分からないことがあれば、すぐに弁護士などの専門家に相談するのが無難です。
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