相続放棄で借金は消える?相続放棄の基本と借金の行方を解説
2025.05.26更新
目次
親が亡くなった後で思いがけない借金が発覚し、返済義務を負うことになるのではないかと不安を感じている方は少なくありません。このような場合に検討したい選択肢が「相続放棄」です。相続放棄をすれば借金の返済義務から解放されますが、一方で相続できる財産も失うことになります。この記事では、相続放棄の基本的な仕組みから手続方法、注意点までを詳しく解説します。
相続放棄とは
相続放棄は、被相続人(亡くなった人)の権利義務を一切承継しない選択をするための法的手続きです。相続には、預貯金や不動産といったプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も含まれます。相続人は、これらの財産を相続するか放棄するか、熟慮期間内に判断することが求められます。
相続放棄で借金から解放されるしくみ
相続放棄をすると、相続人としての地位は失われます。これにより、プラスとマイナス双方の相続財産を一切承継しない効果が生まれ、被相続人の借金から完全に解放されます。放棄できる借金に例外はなく、住宅ローンや消費者金融からの借入、事業資金の借入、滞納税金や滞納家賃などが、亡くなった人名義の債務すべてに及びます。
相続放棄の手続方法
相続放棄の手続は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に「相続放棄の申述」を行うことで進めます。申述は相続人それぞれが個別に判断して行う手続であり、ほかの相続人の意向に縛られることはありません。手続にあたっては、所定の申述書のほかに、相続関係を示す戸籍謄本などが必要です。
相続放棄の期限は3か月以内
相続放棄は「自己のために相続が開始したことを知った日」から3か月以内に行わなければなりません。この期間は「熟慮期間」と呼ばれます。なお、相続財産の調査に時間がかかるなど、やむを得ない事情がある場合は、家庭裁判所に申し立てることで期限の伸長が可能です。
相続放棄すると借金はどうなる?
相続放棄によって借金の承継を免れることはできますが、その借金が消えてなくなるわけではありません。借金から完全に逃れたい場合には、相続人全員ここでは、相続放棄後の借金の行方について詳しく解説します。
次順位の相続人に借金が引き継がれる
相続放棄をすると、その相続人の相続分は次順位の相続人に移ります。法定相続人の順位は、配偶者と同順位で第1順位が子(または代襲相続人としての孫)、第2順位が父母、第3順位が兄弟姉妹と定められています。相続放棄した人の相続分は、同順位または次順位の相続人で分けることになります。
基本的には法定相続人全員で放棄する必要がある
相続放棄は相続人それぞれが個別に判断できる手続ですが、借金の返済義務から確実に解放されるためには、法定相続人全員で相続放棄するのが適切です。複数人による同時の相続放棄は、代表者がそれぞれの必要書類を集めて提出することで行えます。
相続放棄と代襲相続の関係
相続放棄をした場合、その人の子に相続権が移る「代襲相続」は発生しません。放棄によって相続人の地位を失い、卑属(子や孫)への権利の承継が止まるためです。
一方、相続欠格(重大な非行により相続権を失うこと)の場合は代襲相続が発生し、相続権は相続欠格者の子に移ります。このため、相続放棄をした場合、相続人の子が借金を承継する心配はありません。
全員が相続放棄した場合の借金の行方
法定相続人全員が相続放棄をすると、相続財産は法人として扱われる「相続財産法人」となります。この場合、利害関係人または検察官の申立てにより、家庭裁判所が相続財産管理人を選任します。相続財産管理人は、債権者への弁済など相続財産の清算手続を進めることになります。
相続財産管理人が選任された後は、官報による相続人捜索の公告、特別縁故者への財産分与、そして最終的な国庫帰属という流れで手続が進みます。相続債務は、相続財産の範囲内で清算されることになり、その額を超える部分については債権者が損失を負担することになるのです。
相続放棄のメリット・デメリット
相続放棄には、借金の返済義務から解放されるというメリットがある一方で、プラスの財産も一切相続できなくなるというデメリットがあります。また、ほかの相続人への影響も考慮しなければなりません。相続放棄は一度行うと取り消すことができないため、メリット・デメリットをしっかりと把握した上で判断を行う必要があります。以下で、それぞれのポイントを詳しく解説していきましょう。
メリット:借金の返済義務から解放される
相続放棄の最大のメリットは、被相続人名義の債務から完全に解放されることです。相続放棄が認められると、住宅ローンや消費者金融からの借入れ、事業上の債務など、被相続人が負っていた一切の債務について返済義務を負わなくて済みます。債権者からの督促や取立ての心配もありません。
上記のような効果は、相続人自身の経済的な破綻を防ぐことにもつながります。万一、相続人自身の資力で返済できない多額の債務を相続してしまうと、最悪の場合、自己破産せざるを得なくなる可能性もあるでしょう。相続放棄によってこうしたリスクを回避し、相続人本人とその家族の生活を守ることができます。
デメリット:プラスの財産も相続できなくなる
相続放棄のデメリットとして最も大きいのは、プラスの財産も一切相続できなくなることです。預貯金や不動産はもちろん、有価証券や骨董品なども相続する権利を失います。また、相続放棄後に新たな財産が見つかった場合でも、その財産を相続することはできません。
もっとも、生命保険契約によって給付される死亡保険金や、死亡退職金については、例外となる場合があります。上記契約による保険金請求権は、相続財産ではなく、受取人固有の権利となるためです。
デメリット:ほかの相続人とのトラブルになる可能性がある
相続放棄は他の相続人にも大きな影響を及ぼします。一部の相続人が放棄すると、残りの相続人の相続分が再計算され、結果として負担が増えることになります。特に相続税については、課税対象となる財産の総額は変わらないものの、相続人の数が減ることで一人当たりの負担額が増加する可能性があります。
また、事前の説明が不十分な場合、突然の相続放棄によって親族関係が悪化するリスクもあるでしょう。このようなトラブルを防ぐためにも、相続放棄を検討する際は他の相続人への事前説明を丁寧に行い、十分な話し合いの機会を設けることが大切です。
借金を理由とする相続放棄の手続方法
相続放棄の手続は、必要書類を揃えて家庭裁判所に申述を行うことで進めます。手続には期限があり、申述書の作成や必要書類の収集には一定の時間がかかるため、計画的に進める必要があります。ここでは、相続放棄の具体的な手続の流れと必要書類について解説します。
相続放棄の申述の流れ
相続放棄の申述は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所で行います。相続放棄申述書と必要書類を揃えて提出し、書類が不備なく受理された場合には、家庭裁判所から照会書が送られてきます。これは放棄の意思を最終確認するための書面であり、返送期限内に回答を行う必要があります。
照会書への回答後、問題がなければ相続放棄申述受理通知書が交付されます。手続全体には通常1か月から2か月程度の期間がかかります。なお、債権者などに相続放棄の事実を証明する必要がある場合は、別途申請することで受理証明書を取得することもできます。
相続放棄申述書の書き方
相続放棄申述書には、申述人の基本情報(本籍、氏名、住所、職業、電話番号)と被相続人の情報(本籍、氏名、最後の住所、死亡年月日)を記入します。申述の理由は、あらかじめ用意された選択肢から該当するものを選びます。
相続財産の概要については、把握できている範囲で記載すれば構いません。署名は必ず自署で行い、認印で押印します。記入内容を訂正する場合は、訂正箇所に二重線を引いて訂正印を押すという一般的な方法で行います。書式は家庭裁判所のウェブサイトからダウンロードできるほか、裁判所の窓口でも入手可能です。
収集する必要書類一覧
相続放棄の申述には、相続放棄申述書のほか、親族関係を証明する戸籍関係書類と被相続人の死亡を証明する書類が必要です。必要な書類は申述人と被相続人の続柄によって異なりますが、すべての場合に共通して必要な基本書類があります。
共通の必要書類
- 相続放棄申述書(収入印紙800円分必要)
- 申述人の戸籍謄本
- 被相続人の住民票除票または戸籍附票
続柄別・追加で必要となる書類
配偶者が申述する場合
被相続人の死亡記載のある戸籍謄本または除籍謄本
子が申述する場合
- 被相続人の死亡記載のある戸籍謄本または除籍謄本
- 代襲相続人(孫)の場合は、被代襲者(子)の死亡記載のある戸籍謄本も必要
父母・祖父母が申述する場合
- 被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本
- 被相続人の子(およびその代襲者)で死亡している人がいる場合は、その出生から死亡までの戸籍謄本
- 被相続人の直系尊属で死亡している人がいる場合は、その死亡記載のある戸籍謄本
兄弟姉妹が申述する場合
- 被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本
- 被相続人の子(およびその代襲者)で死亡している人がいる場合は、その出生から死亡までの戸籍謄本
- 被相続人の直系尊属の死亡記載のある戸籍謄本
- 代襲相続人(甥・姪)の場合は、被代襲者の死亡記載のある戸籍謄本
なお、戸籍謄本は1通450円から750円程度、住民票除票は1通300円程度の手数料がかかります。書類の取得は本籍地や最後の住所地の市区町村役場で行います。また、家庭裁判所から求められた場合は、相続関係説明図の提出も必要になります。
相続放棄する前に確認すべきポイント
借金が多くすぐに相続放棄したほうがいいと判断できる状況でも、後悔がないよう、事前に十分な確認と準備を行いましょう。とくに重要なのは、被相続人の財産状況を正確に把握することと、手続完了までの間に相続放棄の効力を失わせるような行為を避けることです。ここでは、相続放棄前に確認しておくべきポイントを解説します。
事前に財産調査を徹底する
相続放棄の申述がひとたび受理されると、撤回することは不可能です。借金ばかりに目を向けず、利益につながる財産がないか、あらかじめ徹底的に調査しておきましょう。調査には1か月程度かかることも多いため、3か月の期限を考慮して早めに着手することが重要です。
借金そのほかの債務の弁済に応じない
相続放棄を検討している場合は、被相続人の借金の返済に応じてはいけません。一部でも支払いに応じると債務を承認したとみなされ、相続放棄ができなくなるリスクがあります。債権者から督促があった場合は、相続放棄を検討中である旨を伝え、手続が完了するまで支払いを保留してもらいましょう。
もっとも、葬儀費用など社会通念上相当な範囲の支払いについては、相続放棄の妨げにはなりません。また、固定資産税など財産の保存に必要な費用の支払いも認められます。
相続放棄に関するよくある質問
相続放棄をめぐっては、「一度した相続放棄を取り消せないか」「保証人になっている借金はどうなるのか」といった疑問が多く寄せられます。また、「どのような場合に相続放棄が認められないのか」という点も、多くの方が不安に感じているところでしょう。ここでは、相続放棄に関してよく寄せられる質問について、具体的に解説します。
相続放棄の取消し・撤回はできる?
すでに述べた通り、相続放棄の撤回は不可能です。ただし、例外的に、暴力や脅迫によって意思決定の自由を奪われた場合や、相続財産の内容について重大な誤解があった場合などは、錯誤による取消しが認められる可能性はあります。もっとも、単に「思っていた以上の財産が見つかった」といった程度では、取消しは認められないでしょう。
連帯保証の相続放棄はできる?
相続人が被相続人の連帯保証人になっている場合、相続放棄をしても保証債務からは解放されません。保証債務は保証人固有のものであり、相続放棄の対象とはならないためです。ただし、住宅ローンなど団体信用生命保険が付保されている借入れについては、被相続人の死亡により債務が免除される場合があります。保証債務が残る場合は、債権者と分割返済などの交渉を行うことも検討に値するでしょう。
まとめ
相続放棄は、被相続人の借金から解放される有効な手段です。しかし、一度行うと取り消すことはできず、プラスの財産も相続できなくなります。また、手続には3か月という期限があり、財産の処分など一定の行為があると認められなくなるなど、さまざまな制約もあります。
放棄が上手くいかなかったり、後悔したりするようなケースは、基本的にあってはならないものです。迷ったときは、弁護士や司法書士に相談することで、適切な判断のもと確実に手続を進められます。
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