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弁護士ブログ

相続人と連絡がとれない場合はどうする?相続手続の扱い方と対応方法

2025.05.26更新

相続人同士で話し合って遺産の取り分を決めるときは、相続人全員が揃わなくてはなりません。ところが、一部の相続人と何らかの理由で連絡がとれず、上記要件を満たせないことがあります。その状況は、単に電話や手紙に応じない場合から、住所が分からない場合まで、実にさまざまです。連絡のとれない相続人がいる状況で手続を進めるには、どうしたら良いのでしょうか。

連絡のとれない相続人がいる場合の対応の考え方

遺産分割協議により相続手続を進めるときは、相続人全員が揃っている必要があります。ここで問題になるのが、連絡がとれない相続人がいるケースです。この場合、基本的には、連絡がつくまで待たなくてはなりません。万一の場合の対応については、次のように考えます。

音信不通が確定するまで連絡を試みる必要がある

連絡の取れない相続人がいる場合、まずは粘り強く連絡を試みることが重要です。複数の連絡手段を使い、定期的にアプローチすることが求められます。電話、手紙、メールなど、できる限りの方法を試してみましょう。また、連絡を試みた日時や方法、結果などを詳細に記録しておくことも大切です。これは後々、どうしても相続人と連絡がとれなかったときの対応で必要となる可能性があります。

遺言書があれば連絡できなくても手続可

有効な遺言書がある場合、連絡の取れない相続人がいても、相続手続を進められます。遺言書に基づいて遺産の名義変更を行っていくだけなので、他の相続人の協力は必要ではないからです。

 

ただし、注意が必要なのは、遺言の内容が連絡の取れない相続人の遺留分を侵害している可能性がある場合です。このような場合、連絡の取れない相続人に遺留分侵害額請求を行う機会を与えなければ、後に損害賠償請求をされる恐れがありますので、相手が連絡を取り合うことを避けているような状況でも、遺言の内容だけでも伝えておいた方が良いでしょう。

勝手に相続手続を始めた場合のリスク

連絡の取れない相続人がいるにもかかわらず、勝手に相続手続を進めてしまうことは大きなリスクを伴います。大前提として、連絡の取れない相続人が一人でもいると、遺産分割協議を有効に成立させることができません。何とか協議を終えて遺産の名義変更を行おうとしても、有効な遺産分割協議書を用意できないことから、銀行などでの手続に対応してもらえないのが普通です。

 

ただ、上記のように相続人が欠けている状況でも、何らかの理由で手続を進めてしまえる可能性があります。その場合には、以下のようなリスクに晒されます。

相続トラブルの発生

連絡の取れなかった相続人が後から現れ、遺産分割協議無効確認の訴え、損害賠償請求などの法的措置を取られる可能性があります。

遺産分割のやり直し

無効な遺産分割協議に基づいて行われた手続は、すべてやり直しになります。

相続税の修正申告

すでに相続税の申告を行っていた場合、修正申告が必要になる可能性があります。

 

これらのリスクを避けるためにも、連絡の取れない相続人がいる場合は、必ず専門家に相談し、適切な対応を取ることが重要です。安易に手続を進めることは、将来的に大きな問題を引き起こす可能性があることを認識しておきましょう。

連絡が取れない相続人の対応方法

先に述べた通り、連絡が取れない相続人に対しては、何とか対応してもらえるよう交信を試みるほかありません。確実なのは、今の居所を突き止めて、記録が残る形で書面を送ってみる方法です。居所を調べる方法としては、次のようなものが挙げられます。

戸籍附票で住所を確認する

戸籍附票とは、戸籍に載っている人物の住所移転の記録を掲載するもので、本籍地の市区町村役場で写しを取得することができます。内容は住民票の情報と連動しているため、記録上の最新の住所を知る手段になります。

 

問題になるのは、戸籍附票の取得方法です。連絡がとれない相続人と同じ戸籍にいる人が請求すれば、自分たちの住所情報とともに相手方の住所も知ることが出来るでしょう。しかし、相手方が別の戸籍にいる場合は、第三者請求と呼ばれる扱いになります。ただし、遺産分割協議に必要であることを理由として請求すれば、正当な利害関係があるとみなされ、第三者請求であっても戸籍附票の取得が認められます。

親族や知人へ聞き込みを行う

戸籍附票など公的資料による調査が難しい場合、親族や知人への聞き込みが有効な手段です。聞き込みを行う際は、最後に連絡を取っていた人を優先的に対象としつつ、ほかに親しい関係にあった人々にも積極的にも聴取を試みましょう。

 

聞き込み対象者に対しては、相続手続のために連絡を取る必要があることを説明するだけで構いません。本人に伝えてほしいと依頼すれば、事情を理解して相手方から連絡が来る可能性もあります。

判明した住所に手紙を送ってみる

住所が判明した場合、まずは手紙を送ることから始めましょう。これは、連絡に応じない相続人への効果的なアプローチ方法の一つです。手紙の内容には、相続の事実、相続手続への協力を得たい旨、連絡の必要性などを明確に記載します。また、連絡方法や期限なども具体的に示すことが重要です。

 

手紙を送る際は、追跡できる方法による送付か、配達証明を利用することをおすすめします。これにより、相手が確実に受け取ったかどうかを確認することができます。手紙の配達状況は、どうしても連絡がとれなかったときの法的な対応にも役立つでしょう。

実際に訪問してみる

最後の手段として、実際に判明した住所を訪問してみることも考えられます。訪問の最大の効果は、相続人が実際にその住所に居住しているかどうかをすぐに確認できることです。また、運良く会うことができれば、相続手続への協力の必要性を直接訴えることができます。

 

訪問する際は、事前に十分な準備をしておくことが大切です。身分証明書や相続関係を示す資料(被相続人の戸籍謄本など)を持参し、自身の立場を明確にできるようにしましょう。また、相手が不在の場合に備えて、相続手続への協力を求めるメモを用意しておくとよいでしょう。

どうしても相続人と連絡がとれないときの解決方法

相続人との連絡が取れない状況が続く場合、法的対応を検討する必要があります。状況に応じて、遺産分割調停の申立て、不在者財産管理人の選任申立て、失踪宣告の申立てなど、いくつかの選択肢があります。

遺産分割調停の申立て

不仲などを理由に頑なに連絡に応じない相続人がいる場合、遺産分割調停は有効な手段です。相続人本人からの連絡は無視しても、裁判所から呼出状が来れば調停に出席するという人は珍しくありません。
調停では、裁判所の調停委員を交えて話し合いを進めますので、当事者同士で話し合うよりも話がまとまりやすいことは確かです。また、調停が成立した場合、合意した内容が調停調書という書類に記載され、この調停調書があれば不動産の名義変更や預金口座の解約など相続手続を進めることができるので便利です。

 

調停を行っても話がまとまらなかった場合や、裁判所から呼出状を送っても一部の相続人が調停に出てこない場合は、基本的には審判に移行することになります。
審判では、出席した相続人の主張や遺産の種類・内容などを考慮して、裁判所が遺産分割の内容を決定します。従って、審判になれば、一部の相続人が話し合いに応じなくても、最終的に遺産分割が終了することになります。ただ、審判に移行した場合で、遺産に不動産が含まれている時などは、相続人全員の共有にするという審判が出ることもあり、根本的な解決にはならないケースもあります。その意味では、交渉や調停など話し合いで遺産分割を決定する方が望ましいと言えます。

不在者財産管理人の選任申立て

不在者財産管理人とは、従来の居所を去って行方が分からなくなった人の財産を管理する者のことで、家庭裁判所が選任します。選任の申立ができるのは不在者の利害関係者で、管理人は弁護士や司法書士などの中から選ばれます。選任された不在者財産管理人が、自身の権限に基づいて遺産分割に加われば、相続手続を進めることができるでしょう。

 

遺産分割に不在者財産管理人を加えるにあたっては、注意点があります。遺産分割協議に参加して相続権を処分することは、不在者の利益を損ねる可能性のある権限外行為にあたるため、家庭裁判所から別途許可を得る必要がある点です。

失踪宣告の申立て

失踪宣告は、一定期間行方不明の状態が続いている人を法律上死亡したとみなす制度です。利害関係人が家庭裁判所に申し立てることにより、普通失踪の場合は7年以上生死不明であることを条件に認められます。失踪宣告が認められた場合は、その人は死亡したものとみなされますので、代襲相続人もしくは失踪者の相続人との間で遺産分割協議を進めることになります。

 

ただし、失踪宣告後に本人が現れた場合は、失踪宣告を取り消すことができる点に注意を要します。この場合、相続財産の返還を請求されるなど、ややこしいことになります。

遺産分割をしないままにするデメリット

遺産分割を先延ばしにすることは、さまざまな問題を引き起こす可能性があります。連絡が取れない相続人がいるからといって、遺産分割を放置することは決して望ましい選択ではありません。遺産分割を行わずに放置することで生じる主なデメリットは、次の通りです。

預貯金を下ろせない

遺産分割が完了しないと、被相続人名義の預貯金口座からの引き出しが制限されます。2019年7月から施行された民法改正により、預貯金の仮払い制度が導入されましたが、その上限額は預貯金残高の3分の1に法定相続分を乗じた額(1つの金融機関につき150万円まで)とわずかです。この金額を超える預貯金は、遺産分割が完了するまで引き出すことができません。

 

預貯金を下ろせなければ、亡くなった人の資力で生活していた相続人の生活への影響は避けられません。また、相続財産の管理費用が支払えなくなり、そのあいだに荒廃が進む恐れもあります。

不動産の活用が困難になる

被相続人が所有していた不動産は、相続を原因とする所有権移転登記が完了するまで、相続人の判断で処分することができません。少なくとも、登記申請の条件となる遺産分割協議の成立までの間は、第三者への売却やリフォームが出来なくなってしまうのです。

 

ここで問題なのが、土地や建物は維持管理を必要とする財産であり、売却のタイミングによって価格が変わる性質も持つことです。収益が得られないあいだに固定資産税の支払いに困ったり、管理費用まで支払えなくなったり、売却時期を逃して安くなってしまったりする恐れがあります。

相続税申告で不利になる

遺産分割が完了しないと、相続人それぞれの具体的な相続分に基づいた相続税の申告ができません。相続開始から10ヶ月以内に相続税の申告を行う必要がありますが、遺産分割が完了しない場合は、とりあえず未分割で申告しておいて、最終的には法定相続分に基づいて申告することになります。

 

適切に遺産分割してから相続税申告をすることができないとなると、税制上損をすることになる可能性があります。税額を抑える効果のある「小規模宅地等の特例」や「配偶者の税額の軽減」など、誰に財産が帰属するかを基準とする制度の適用ができなくなるためです。

二次相続の発生で権利関係が複雑になる

遺産分割ができない状況が長期化すると、その間に相続人が亡くなってしまう可能性があります。ほかに、高齢化のため、自分で相続権を行使するための判断能力が失われてしまう場合もあります。このような状況に陥った場合、数次相続(数回分の相続)の対応を行ったり、成年後見制度を利用したりしなければなりません。

 

また、二次相続・三次相続と次々に相続が発生する場合、相続人がねずみ算式に増加することも無視できません。増加した相続人は、お互いの関係性が薄く、連絡のとれない人が新たに現れる可能性が捨てきれないでしょう。

相続登記の義務化に伴う罰則が科されることがある

2024年4月1日から、相続による不動産の取得を知った日から3年以内に相続登記を申請することが義務付けられます。この義務に違反した場合、10万円以下の過料が科される可能性があります。基本的には、期限内に遺産分割を終わらせ、登記まで完了させなくてはなりません。

 

現在、相続登記義務化への対応策として「相続人申告登記」という制度が設けられています。これは、相続人が自分の相続人としての地位を登記することで、義務を果たしたとみなされる制度です。ただし、この登記をしても、最終的には遺産分割を行い、確定した相続人に所有権移転登記を行う必要があります。

まとめ

連絡のとれない相続人がいる状況だと、協議による遺産分割は進められません。電話・手紙・訪問などによって何とか連絡を取ってみる、戸籍附票から住所を辿ってみるなどの方法で、相手と交信できる状況にする必要があります。どうしても連絡がつかない・応じないようなら、遺産分割調停や、不在者財産管理人制度を活用した遺産分割協議などの手段を検討すべきでしょう。

 

住所調査や相手方と連絡をとる作業は、相続が発生した直後のように混乱が大きい状況だと、余計に負担が重くなります。相手方と不仲などの理由で連絡がとれない状況なら、代理人を立てた方が速やかな対応ができる可能性が高まります。困ったときは、早々に弁護士などの専門家に相談することで、解決の糸口が見つかります。

投稿者: 西法律事務所

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